5月22日、2017年プリツカー賞受賞者であるラファエル・アランダ、カルメ・ピジェム、ラモン・ヴィラルタ(RCRアーキテクツ)の3人が、東京大学安田講堂にて受賞記念講演を行った。
定員1000名の講演会は大変な人気で、開始10分前にもかかわらず入場待ちはご覧の行列。早くに定員に達し多くの方が入場を断念せざるを得なかった。
シンディ・プリツカーの声明。「審査団は、30年近くにわたって共同制作により作品を生み出してきた3人の建築家を選びました。アランダ、ピジェム、ヴィラルタの3氏は、共に活動することでそれぞれの領域をはるかに超えた作品を世に 送り出してきました。3氏の作品は、公的な空間や私的な空間から文化施設や教育機関まで幅広く、それぞれの施設特有の環境条件とその土地の固有性を強く関連付ける彼らの作品は、3氏の手法が真に溶け合った証しと言えます。」
会場最前列にはプリツカー賞歴代受賞者である西沢立衛、妹島和世、グレン・マーカット(審査員長)、リチャード・ロジャース、ワン・シュウが並ぶ。伊東豊雄の席も用意されていたが講演に間に合わなかった。
紹介されるリチャード・ロジャース。
ラモン・ヴィラルタ、カルメ・ピジェム、ラファエル・アランダ。[Ramon Villa, Carme Pigem, Rafael Aranda]
スペイン・カタルーニャ地方オロット出身の3人組の建築家。1988年故郷に建築設計事務所「RCRアーキテクツ」を設立して以来、共同制作によって作品を生み出してきた。
進行は東京大学教授でもある千葉学。自身も改修に携わったこの安田講堂で記念すべき講演会の開催となった。
「RCRアーキテクツは地域性を大切にしながら、世界中の共感を得られる建築を生み出す。そういった姿勢こそが今世界が求めていることではないだろうか。」
ハイアット財団エグゼクティブ・ディレクター、マーサ・ソーン[Martha Thorne]
「かれらは、繋がり、共存、その場の光、風、素材、風土を大切にし、加えて個人の経験を活かしながら素晴らしいものを作り上げる。」
3人で同時に講演を行うのは初めてだという。
「今回の来日で自分たちにぴったりの日本語を学んだ。それは『阿吽の呼吸』と『三人寄れば文殊の知恵』です。これはわたしたちは『Shared Creativity』という言葉で表現しています。一人の力と経験では作れないものも三人で知恵をと力を出し合って30年活動してきた。」と話すように3氏の作品は、それぞれが持つ背景と語り合うような空間を創造するべく、建物 の場所および場所の持つ物語に対して徹底的なこだわりを見せている。
活動の拠点にしているスペインの田舎町オロット [Olot] の紹介。
「火山性の大地と豊かな自然に恵まれている。自然といっても農場や植栽なども多く、それは人の手が加えられた自然といえる。」
「農場の小屋。古びた金属や木材と植物が見せる表情。」
「荒々しい岩肌と植物など、これらはオロットの典型的な風景で、とてもコントラストが強い風景。こういったところで育ち、事務所を構え仕事をしている。」
「1990年初めて日本を訪れ各地を回ったが、それは今までの人生で全く異なる体験ができた機会だった。特に高野山で過ごした数日はとても大きな意味をもち、この3人で建築をやっていくのだという強い信念をもつきっかけとなった。」
「こういった砂庭は日本の方には日常的かもしれませんが、そこには小さな宇宙があり、『一体どうやって作っているのだろう!』と我々の驚きと興味が尽きることはなかった。」
「間が仕切られながら繋がる日本の建築を学んだ。」
その後も展覧会なども含め5回来日。
2010年にはTOTOギャラリー・間 25周年記念展「GLOBAL ENDS」に〈人間回帰〉という作品を出品している。なお、2018年1月には同じくギャラリー・間で個展が開催される予定。
今回の来日では奈良の吉野杉をリサーチした。
「日本建築の重要な素材である杉や桧がどのように育てられ、製材されるのか “素材のルーツ” をリサーチした。」
「ルーツを知るとそのエッセンス(本質)を理解することがでる。エッセンスを理解することで異なる文化を理解することができる。それが新たな創造の源となる。」
「奈良の寺や京都の竜安寺にも行きました。外と内の融合、間と間の連続性、これら日本の建築は我々に常にインスピレーションを与えてくれます。」
多くのスライドを使って自作の紹介がはじまる。
〈トソル-バジル競技場/Tossols-Basil Athletics Track〉
オロットの街にある競技場。ほとんど木を切らずに森を活かしながらトラックを計画した。
(photo: R.Prat)
単に競技場を作ったのではなく、走りながら森の奥行きを感じることができる場所を作った。この場でなければできない競技場。
(photo: H.Suzuki)
〈ベルロック・ワイナリー/Bell–Lloc Winery〉
ワイン畑の風景に溶け込むように計画された貯蔵施設。
(photo: H.Suzuki)
ワインのテイスティングのために光や風などその土地の空気を感じられる。日常的な水平垂直の空間を避け、特別なワインの世界に入ることができる。
(photo: E.Pons)
〈ラ・リラ劇場の公開空地/La Lira theatre public domain〉
川の畔に建つ、使われなくなった劇場を広場へとコンバージョンした。
(photo: H.Suzuki)
片側には森と川、反対側には街。それらを繋ぐ力強い空間を作った。多目的ホールを地下に設けた。
(photo: H.Suzuki)
〈レス・コルズ・レストランのマーキー/Marquee for Les Cols Restaurant〉
マーキーとはテント小屋。フランスでは古来より人が集まり宴を催す際、仮設のテントを設けた。それはとてもはかないものだがその下では人々の賑わいがある。そんなレストランを求められた。
(photo: H.Suzuki)
敷地を掘り下げ両側に石を積み上げる。その間に幾本ものチューブがしなりながら屋根を形作る。周囲は透明なシート材が覆い(ガラスでは強すぎる)、テーブルや椅子も透明で、外なのか内なのか非常に曖昧な空間を作った。外にも内にも今後植物が育っていくことでその曖昧さはさらに増していくことになる。
(photo: H.Suzuki)
〈ヴァールゼクローク・メディアテーク/Waalse Krook Mediacheque〉
ベルギーで竣工した最新プロジェクト。都市のなかで大きなボリュームが重くならないように調和を意識した。場の雰囲気、ここを使う人々がどのような感情になるかを深く考えた。
(photo: Courtesy of the authors)
「建築をつくるにはその根本がどこにあるのかを常に考えています。その場所の文化やルーツを理解することで設計のロジックとなります。それを表現できれば建築には共有できる要素が必ず生まれるはずです。」「建築は生きていくための仕事であると同時に、我々の生き方でもあります。」と締めくくった。
講演会の2日前、東京の迎賓館赤坂離宮で行われたプリツカー賞授賞式。左から西沢立衛、安藤忠雄、妹島和世、ラファエル・アランダ、グレン・マーカット、カルメ・ピジェム、ラモン・ヴィラルタ、伊東豊雄、坂茂ら日本の歴代受賞者と共に。
定員1000名の講演会は大変な人気で、開始10分前にもかかわらず入場待ちはご覧の行列。早くに定員に達し多くの方が入場を断念せざるを得なかった。
シンディ・プリツカーの声明。「審査団は、30年近くにわたって共同制作により作品を生み出してきた3人の建築家を選びました。アランダ、ピジェム、ヴィラルタの3氏は、共に活動することでそれぞれの領域をはるかに超えた作品を世に 送り出してきました。3氏の作品は、公的な空間や私的な空間から文化施設や教育機関まで幅広く、それぞれの施設特有の環境条件とその土地の固有性を強く関連付ける彼らの作品は、3氏の手法が真に溶け合った証しと言えます。」
会場最前列にはプリツカー賞歴代受賞者である西沢立衛、妹島和世、グレン・マーカット(審査員長)、リチャード・ロジャース、ワン・シュウが並ぶ。伊東豊雄の席も用意されていたが講演に間に合わなかった。
紹介されるリチャード・ロジャース。
ラモン・ヴィラルタ、カルメ・ピジェム、ラファエル・アランダ。[Ramon Villa, Carme Pigem, Rafael Aranda]
スペイン・カタルーニャ地方オロット出身の3人組の建築家。1988年故郷に建築設計事務所「RCRアーキテクツ」を設立して以来、共同制作によって作品を生み出してきた。
進行は東京大学教授でもある千葉学。自身も改修に携わったこの安田講堂で記念すべき講演会の開催となった。
「RCRアーキテクツは地域性を大切にしながら、世界中の共感を得られる建築を生み出す。そういった姿勢こそが今世界が求めていることではないだろうか。」
ハイアット財団エグゼクティブ・ディレクター、マーサ・ソーン[Martha Thorne]
「かれらは、繋がり、共存、その場の光、風、素材、風土を大切にし、加えて個人の経験を活かしながら素晴らしいものを作り上げる。」
3人で同時に講演を行うのは初めてだという。
「今回の来日で自分たちにぴったりの日本語を学んだ。それは『阿吽の呼吸』と『三人寄れば文殊の知恵』です。これはわたしたちは『Shared Creativity』という言葉で表現しています。一人の力と経験では作れないものも三人で知恵をと力を出し合って30年活動してきた。」と話すように3氏の作品は、それぞれが持つ背景と語り合うような空間を創造するべく、建物 の場所および場所の持つ物語に対して徹底的なこだわりを見せている。
活動の拠点にしているスペインの田舎町オロット [Olot] の紹介。
「火山性の大地と豊かな自然に恵まれている。自然といっても農場や植栽なども多く、それは人の手が加えられた自然といえる。」
「農場の小屋。古びた金属や木材と植物が見せる表情。」
「荒々しい岩肌と植物など、これらはオロットの典型的な風景で、とてもコントラストが強い風景。こういったところで育ち、事務所を構え仕事をしている。」
「1990年初めて日本を訪れ各地を回ったが、それは今までの人生で全く異なる体験ができた機会だった。特に高野山で過ごした数日はとても大きな意味をもち、この3人で建築をやっていくのだという強い信念をもつきっかけとなった。」
「こういった砂庭は日本の方には日常的かもしれませんが、そこには小さな宇宙があり、『一体どうやって作っているのだろう!』と我々の驚きと興味が尽きることはなかった。」
「間が仕切られながら繋がる日本の建築を学んだ。」
その後も展覧会なども含め5回来日。
2010年にはTOTOギャラリー・間 25周年記念展「GLOBAL ENDS」に〈人間回帰〉という作品を出品している。なお、2018年1月には同じくギャラリー・間で個展が開催される予定。
今回の来日では奈良の吉野杉をリサーチした。
「日本建築の重要な素材である杉や桧がどのように育てられ、製材されるのか “素材のルーツ” をリサーチした。」
「ルーツを知るとそのエッセンス(本質)を理解することがでる。エッセンスを理解することで異なる文化を理解することができる。それが新たな創造の源となる。」
「奈良の寺や京都の竜安寺にも行きました。外と内の融合、間と間の連続性、これら日本の建築は我々に常にインスピレーションを与えてくれます。」
多くのスライドを使って自作の紹介がはじまる。
〈トソル-バジル競技場/Tossols-Basil Athletics Track〉
オロットの街にある競技場。ほとんど木を切らずに森を活かしながらトラックを計画した。
(photo: R.Prat)
単に競技場を作ったのではなく、走りながら森の奥行きを感じることができる場所を作った。この場でなければできない競技場。
(photo: H.Suzuki)
〈ベルロック・ワイナリー/Bell–Lloc Winery〉
ワイン畑の風景に溶け込むように計画された貯蔵施設。
(photo: H.Suzuki)
ワインのテイスティングのために光や風などその土地の空気を感じられる。日常的な水平垂直の空間を避け、特別なワインの世界に入ることができる。
(photo: E.Pons)
〈ラ・リラ劇場の公開空地/La Lira theatre public domain〉
川の畔に建つ、使われなくなった劇場を広場へとコンバージョンした。
(photo: H.Suzuki)
片側には森と川、反対側には街。それらを繋ぐ力強い空間を作った。多目的ホールを地下に設けた。
(photo: H.Suzuki)
〈レス・コルズ・レストランのマーキー/Marquee for Les Cols Restaurant〉
マーキーとはテント小屋。フランスでは古来より人が集まり宴を催す際、仮設のテントを設けた。それはとてもはかないものだがその下では人々の賑わいがある。そんなレストランを求められた。
(photo: H.Suzuki)
敷地を掘り下げ両側に石を積み上げる。その間に幾本ものチューブがしなりながら屋根を形作る。周囲は透明なシート材が覆い(ガラスでは強すぎる)、テーブルや椅子も透明で、外なのか内なのか非常に曖昧な空間を作った。外にも内にも今後植物が育っていくことでその曖昧さはさらに増していくことになる。
(photo: H.Suzuki)
〈ヴァールゼクローク・メディアテーク/Waalse Krook Mediacheque〉
ベルギーで竣工した最新プロジェクト。都市のなかで大きなボリュームが重くならないように調和を意識した。場の雰囲気、ここを使う人々がどのような感情になるかを深く考えた。
(photo: Courtesy of the authors)
「建築をつくるにはその根本がどこにあるのかを常に考えています。その場所の文化やルーツを理解することで設計のロジックとなります。それを表現できれば建築には共有できる要素が必ず生まれるはずです。」「建築は生きていくための仕事であると同時に、我々の生き方でもあります。」と締めくくった。
講演会の2日前、東京の迎賓館赤坂離宮で行われたプリツカー賞授賞式。左から西沢立衛、安藤忠雄、妹島和世、ラファエル・アランダ、グレン・マーカット、カルメ・ピジェム、ラモン・ヴィラルタ、伊東豊雄、坂茂ら日本の歴代受賞者と共に。
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