手塚建築研究所による千代田区の「番町教会」を見学してきました。四ッ谷駅から2分、麹町駅から3分程の場所。
[Bancho Church, Tokyo by Tezuka Architects]
敷地面積429m2、建築面積299m2、延床面積607m2。RC造3階建て。
1階にホワイエと礼拝堂、2階に集会室、3階に牧師館(牧師の住居)からなる。左奥に礼拝堂のボリュームが覗いている。右奥は職員用の階段棟で、2階の厨房や、3階の牧師館に通じている。
3層の建物は2階と3階にバルコニーを持つ。階段状のボリュームは北側斜線に沿ってというわけではなく、プロクラムに沿って必要以上のボリュームにせず、街に対して圧迫感を与えないようにした。さらに建物は新築にも関わらず、既に時間が経っているような、そして年月と共にさらに味わいを増していくような佇まいを目指した。
階段棟の最上部には十字架を新造した。プロテスタントの教会では必ずしも外部に十字架があるわけではないそうだが、手塚さんが「せっかくなので作りましょう!」と関係者に働きかけ、タイに金属加工工房を持つアメリカ人建築家に、ブロンズの鋳造で製作してもらった。
130年以上の歴史がある番町教会は、元は隣の四番町にあり、戦前はフランク・ロイド・ライトの弟子、遠藤新が手掛けた礼拝堂もあったという。近年の四番町周辺再開発により、ここ六番町に移転してきた。
前庭に植わるモミの木は前教会から移植。3台分の駐車場は洗い出し仕上げ。この日のようなオープンチャーチイベントや、バザー開催時には車止めを取り払い、テラスに変わる。
車止めを取り、ガラス扉を大きく開き、テラスからホワイエへと連続する。
ホワイエ。床はボルドーパイン張り。天井高は2.3mほどと低めで、不燃断熱材が吹き付けてある。
ホワイエからは前面扉とほぼ同じ開口面積の扉を介して、礼拝堂へとさらに連続する。
「礼拝堂内は見えないように」という声もあったそうだが、教会の「Open for all」のテーマからも中央部以外はガラス扉にした。
木の扉は外側と内側でデザインが異なる。外側は風雨や外敵から守る堅牢さ、内側は閂を掛ける構造が見えるという "本来"の姿を表現することでより教会らしい佇まいを出すことができた。
低く抑えられたホワイエから天井高9mの礼拝堂へ。
リズミカルに穿たれたトップライト。
内覧会が始まる前、右のピアノで手塚さんがピアノを弾いて、礼拝堂の響きを聞かせてくれた。
後部2階にはバルコニーがあり、現在ドイツで製作中のパイプオルガンが11月に据え付けられる予定。
パイプオルガンは本来ヨーロッパの石造りの教会のもの。木造や鉄骨造ではその音域を受け止めることができないためRC造とした。
礼拝堂の正面と、左右の壁はそれぞれ異なる傾斜が付いており、面同士で反響し合うフラッターエコーを軽減できるようになっている。写真は4度と最も傾斜した右の壁。
十字架は既存のもの。いつから使われているか不明だそうだが、丸太を二本使っただけのシンプルで味わい深い十字架だ。
天井を見上げると3ヶ所だけ色があるのに気付く。
ステンドグラス作家の井上千恵美による制作。ステンドグラスはその場の光と環境によって見え方が異なるため、試作しては現場で何度も確認を繰り返したという。
ちなみにステンドグラスの外側に防火ガラス、内側にアクリル板で保護と落下防止をしてある。
矩形のモチーフは壁面にも。照明が仕込まれている。
説教台や聖餐卓は手塚建築でデザインしたオリジナル。
礼拝堂脇の廊下には書棚・収納、奥にトイレ。
階段室にも井上千恵美制作のステンドグラスが納まる。大樹をイメージした作品名は〈いのちの光〉。
手塚建築では3作目の教会となるが、ステンドグラスを使うのは初めてだ。
2階、礼拝堂のバルコニーへ。壁・天井は総左官で久住有生が手掛けた。RC壁のままではパイプオルガンの反響が強すぎる。程よく吸収させるために壁は粗い仕上げとなっている。
継ぎ目が出ないよう、一つの面は1日で仕上げた。10人近い職人が休憩無しで一気に作業したそうだ。
「天使の梯子」が現れた。
手塚さんが20年以上前、エジプトの神殿で見掛けたイメージを「いつか実現したい」と温め続けていたデザインだ。
2階集会室。礼拝の後の食事や、イベントなどに使う。
手塚建築お得意の全面引戸は採用しなかった。全開口はいささか労力を伴うので、高齢者も利用する教会では通常の引戸とした。
礼拝やイベントの後に皆で食事会をするため、集会室の一画には厨房も備わる。
厨房の仕上げと合わせるために、天井のエアコン筐体がステンレス張りされているのに注目。手塚建築ではオンドルを備えることが多いが、ここでは階高をあまり高くしたくないことから2階・3階ではエアコン、1階のみオンドルを採用した。
開口に沿ってL字のバルコニー。軒も深く教会だということを忘れてしましそうな雰囲気だ。
パイプの雨樋では興ざめ。コンクリートで作り付けた。もちろんパイプを隠す方法も可能だが、雨が降れば水が流れるという自然のあるべき姿を見せることとした。
この樋は階段棟でも確認できる。
この日は「オープンチャーチ」と銘打って、見学会のほかオルガンコンサート(演奏:茂呂淳子)やトークイベントも開催された。
トークイベントにて左から担当の島田真弓さん、手塚貴晴さん、手塚由比さん。
島田さんは「"Open for All"というコンセプトのもと、優しい光で満たされる明るい礼拝堂と、通りに面した開放的な広いホワイエ、みんなで食事をする集会室とオープンキッチンなど、素材の選び方から家具に至るまで、人が集うこと、人よりも長く建築が生きていくことを大切に設計しました。」と話す。
手塚さんは「今回の設計にあたって最大のテーマは歴史です。日本におけるキリスト教の歴史は浅いので、番町教会の130年の歴史は特別な意味があります。そして100年200年先のひとに残すこの教会を、どのように設計するか責任のある仕事でした。歴史は演出することができないので、ここに集い使う方々が日々の中で未来を作り上げていっていただけたらと思います。」
【番町教会】
建築設計:手塚建築研究所
構造設計:オーノJAPAN
音響設計:永田音響設計
照明計画:ぼんぼり光環境計画
施工:佐藤秀
[Bancho Church, Tokyo by Tezuka Architects]
敷地面積429m2、建築面積299m2、延床面積607m2。RC造3階建て。
1階にホワイエと礼拝堂、2階に集会室、3階に牧師館(牧師の住居)からなる。左奥に礼拝堂のボリュームが覗いている。右奥は職員用の階段棟で、2階の厨房や、3階の牧師館に通じている。
3層の建物は2階と3階にバルコニーを持つ。階段状のボリュームは北側斜線に沿ってというわけではなく、プロクラムに沿って必要以上のボリュームにせず、街に対して圧迫感を与えないようにした。さらに建物は新築にも関わらず、既に時間が経っているような、そして年月と共にさらに味わいを増していくような佇まいを目指した。
階段棟の最上部には十字架を新造した。プロテスタントの教会では必ずしも外部に十字架があるわけではないそうだが、手塚さんが「せっかくなので作りましょう!」と関係者に働きかけ、タイに金属加工工房を持つアメリカ人建築家に、ブロンズの鋳造で製作してもらった。
130年以上の歴史がある番町教会は、元は隣の四番町にあり、戦前はフランク・ロイド・ライトの弟子、遠藤新が手掛けた礼拝堂もあったという。近年の四番町周辺再開発により、ここ六番町に移転してきた。
前庭に植わるモミの木は前教会から移植。3台分の駐車場は洗い出し仕上げ。この日のようなオープンチャーチイベントや、バザー開催時には車止めを取り払い、テラスに変わる。
車止めを取り、ガラス扉を大きく開き、テラスからホワイエへと連続する。
ホワイエ。床はボルドーパイン張り。天井高は2.3mほどと低めで、不燃断熱材が吹き付けてある。
ホワイエからは前面扉とほぼ同じ開口面積の扉を介して、礼拝堂へとさらに連続する。
「礼拝堂内は見えないように」という声もあったそうだが、教会の「Open for all」のテーマからも中央部以外はガラス扉にした。
木の扉は外側と内側でデザインが異なる。外側は風雨や外敵から守る堅牢さ、内側は閂を掛ける構造が見えるという "本来"の姿を表現することでより教会らしい佇まいを出すことができた。
低く抑えられたホワイエから天井高9mの礼拝堂へ。
リズミカルに穿たれたトップライト。
内覧会が始まる前、右のピアノで手塚さんがピアノを弾いて、礼拝堂の響きを聞かせてくれた。
後部2階にはバルコニーがあり、現在ドイツで製作中のパイプオルガンが11月に据え付けられる予定。
パイプオルガンは本来ヨーロッパの石造りの教会のもの。木造や鉄骨造ではその音域を受け止めることができないためRC造とした。
礼拝堂の正面と、左右の壁はそれぞれ異なる傾斜が付いており、面同士で反響し合うフラッターエコーを軽減できるようになっている。写真は4度と最も傾斜した右の壁。
十字架は既存のもの。いつから使われているか不明だそうだが、丸太を二本使っただけのシンプルで味わい深い十字架だ。
天井を見上げると3ヶ所だけ色があるのに気付く。
ステンドグラス作家の井上千恵美による制作。ステンドグラスはその場の光と環境によって見え方が異なるため、試作しては現場で何度も確認を繰り返したという。
ちなみにステンドグラスの外側に防火ガラス、内側にアクリル板で保護と落下防止をしてある。
矩形のモチーフは壁面にも。照明が仕込まれている。
説教台や聖餐卓は手塚建築でデザインしたオリジナル。
礼拝堂脇の廊下には書棚・収納、奥にトイレ。
階段室にも井上千恵美制作のステンドグラスが納まる。大樹をイメージした作品名は〈いのちの光〉。
手塚建築では3作目の教会となるが、ステンドグラスを使うのは初めてだ。
2階、礼拝堂のバルコニーへ。壁・天井は総左官で久住有生が手掛けた。RC壁のままではパイプオルガンの反響が強すぎる。程よく吸収させるために壁は粗い仕上げとなっている。
継ぎ目が出ないよう、一つの面は1日で仕上げた。10人近い職人が休憩無しで一気に作業したそうだ。
「天使の梯子」が現れた。
手塚さんが20年以上前、エジプトの神殿で見掛けたイメージを「いつか実現したい」と温め続けていたデザインだ。
2階集会室。礼拝の後の食事や、イベントなどに使う。
手塚建築お得意の全面引戸は採用しなかった。全開口はいささか労力を伴うので、高齢者も利用する教会では通常の引戸とした。
1階にもあったが、オリジナルで製作したスタッキングチェアは桐材で非常に軽くできており、こちらも高齢者に配慮したもの。
礼拝やイベントの後に皆で食事会をするため、集会室の一画には厨房も備わる。
厨房の仕上げと合わせるために、天井のエアコン筐体がステンレス張りされているのに注目。手塚建築ではオンドルを備えることが多いが、ここでは階高をあまり高くしたくないことから2階・3階ではエアコン、1階のみオンドルを採用した。
開口に沿ってL字のバルコニー。軒も深く教会だということを忘れてしましそうな雰囲気だ。
パイプの雨樋では興ざめ。コンクリートで作り付けた。もちろんパイプを隠す方法も可能だが、雨が降れば水が流れるという自然のあるべき姿を見せることとした。
この樋は階段棟でも確認できる。
この日は「オープンチャーチ」と銘打って、見学会のほかオルガンコンサート(演奏:茂呂淳子)やトークイベントも開催された。
トークイベントにて左から担当の島田真弓さん、手塚貴晴さん、手塚由比さん。
島田さんは「"Open for All"というコンセプトのもと、優しい光で満たされる明るい礼拝堂と、通りに面した開放的な広いホワイエ、みんなで食事をする集会室とオープンキッチンなど、素材の選び方から家具に至るまで、人が集うこと、人よりも長く建築が生きていくことを大切に設計しました。」と話す。
手塚さんは「今回の設計にあたって最大のテーマは歴史です。日本におけるキリスト教の歴史は浅いので、番町教会の130年の歴史は特別な意味があります。そして100年200年先のひとに残すこの教会を、どのように設計するか責任のある仕事でした。歴史は演出することができないので、ここに集い使う方々が日々の中で未来を作り上げていっていただけたらと思います。」
【番町教会】
建築設計:手塚建築研究所
構造設計:オーノJAPAN
音響設計:永田音響設計
照明計画:ぼんぼり光環境計画
施工:佐藤秀
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